Profile 若尾文子プロフィール
若 尾 文 子 WAKAO AYAKO

1951年、大映の第5期ニューフェイスとして映画界入りし、翌年、『死の街を脱れて』でスクリーン・デビュー。『秘密』『明日は日曜日』など、デビュー1年目にして9本の映画に出演。可憐な娘役で瞬く間に大衆的な人気を博す。まもなく世界的巨匠・溝口健二監督に抜擢され『祇園囃子』('53)に出演。色街の封建的なしきたりに抵抗するアプレゲールな舞妓を好演し、本格的に女優としての第一歩を踏み出した。『心の日月』('54)『涙』('56)など、若尾をヒロインに据えたホームドラマやメロドラマが量産され、そのアイドル的人気は、ブロマイドの売れ行きが1位となるほど。数々の雑誌の表紙を飾り、スタア雑誌の人気投票で3年連続第1位を獲得、デビュー5年目には、1ヶ月のファンレターが2955通をかぞえ、正月に届いたファンレターは4万2千通を記録した。

56年、再び溝口監督に起用され『赤線地帯』で初の汚れ役に挑む。情に流される古風な娼婦とは違い、現実的で打算的な性格の娼婦役をドライに魅力的に演じ、翌年には、増村保造監督『青空娘』で、日本的な湿った情緒を完全に払拭した役作りによって、新しい時代を象徴する女性像をスクリーンに誕生させた。のちに、三島由紀夫によって“ 氷いちご ”に喩えられ礼讃されるところとなる清冽と甘美を兼ね備えた若尾的魅力が作品を輝かせている。

以降、小津安二郎監督『浮草』('59)、市川崑監督『あなたと私の合言葉 さようなら、今日は』('59)、川島雄三監督『しとやかな獣』('62)、吉村公三郎監督『その夜は忘れない』('62)、三隅研次監督『女系家族』('63)、山本薩夫監督『氷点』('66)など、日本映画史に残る数多くの名作に出演。映画出演数は250本以上に及ぶ。出演作には、三島由紀夫原作『永すぎた春』('57)『お嬢さん』('61)『獣の戯れ』('64)、谷崎潤一郎原作『瘋癲老人日記』('62)『卍』('64)『刺青』('66)、水上勉原作『雁の寺』('62)『越前竹人形』『波影』('65)、森鴎外原作『雁』('66)、川端康成原作『虹いくたび』('56)『千羽鶴』('69)など文芸映画の薫り高い名作も多く、複雑な女性心理の陰翳を繊細に演じわけ、目が眩むほどの官能的な美しさをフィルムに焼きつけた。

なかでも増村監督とは、『妻は告白する』('61)『清作の妻』('65)など20作もの傑作を世に送り出し、一連の作品群を通じて、自らの欲望に忠実に生きる破滅的なまでに情熱的な女性像を創造した。若尾は、これらの鮮烈な情念のドラマを過剰と抑制を拮抗させて演じきり、神々しいまでの輝きを放つ愛のテーマへと昇華させた。かつて、これほど “ しとやか “ で“ したたかな “ファム・ファタルがいただろうか。これまでの日本映画のスター・システムにおける善悪二元論的ステレオタイプなヒロイン像は、60年代の若尾文子によってまたもや革新された。

この増村監督『妻は告白する』と川島監督『女は二度生まれる』で、1961年度キネマ旬報賞、ブルーリボン賞、NHK映画賞、日本映画記者会賞、ホワイト・ブロンズ賞の主演女優賞五賞を独占。加えて『婚期』の演技によってブルーリボン賞主演女優賞を獲得した。1965年には、『妻の日の愛のかたみに』でキネマ旬報主演女優賞、『清作の妻』『波影』で、キネマ旬報賞、ブルーリボン賞、NHK映画賞、日本映画記者会賞、ホワイト・ブロンズ賞の主演女優賞を受賞、2度目の五冠に輝いた。1968年には、『不信のとき』『濡れた二人』『積木の箱』でキネマ旬報賞などの主演女優賞を受賞、キネマ旬報主演女優賞三たび受賞という前例のない快挙を成した。

70年には、「座頭市と用心棒」でのヒロイン、翌71年に『スパルタ教育 くたばれ親父』で日活スター石原裕次郎の妻役、松竹「男はつらいよ・純情篇」で6代目マドンナと、五社協定の時代にはあり得なかった国民的映画ヒーローたちとの夢のコラボレーションをはたす。

1971年、大映が倒産。この頃よりテレビ・舞台へも活躍の場を広げ、坂口安吾とその妻の自伝小説をドラマ化した『クラクラ日記』('68 TBS)で本格的テレビ・デビュー。初主演にして第5回ギャラクシー賞第4回期間選奨を受賞する。以降、 向田邦子脚本による『七つちがい』('71日本テレビ)、倉本聰脚本・久世光彦演出『おはよう』('72 TBS)、倉本聰脚本異色コメディ『あなただけ今晩は』('75フジテレビ)、TBS開局二十周年記念番組『寿の日』('75) 、山田太一脚本『午後の旅立ち』('81毎日放送)、杉本苑子原作『長勝院の萩』('83朝日放送) 、 平岩弓枝・秋の時代劇スペシャル『御宿かわせみ』('88 テレビ朝日) 宮尾登美子原作・新春ドラマスペシャル『春燈』('89テレビ朝日)、大佛次郎原作大型時代劇スペシャル『三姉妹』('90 TBS) 、TBS創立四十周年記念番組『源氏物語』('91) 、松本清張月曜ドラマスペシャル『迷走地図』('92 TBS)、 山本周五郎生誕100年テレビ50年記念『初蕾』('03 TBS)、橋田壽賀子ドラマスペシャル『結婚』('09テレビ朝日)など100本以上のテレビドラマに出演。

とくに、TBS「東芝日曜劇場」には、与謝野晶子の次男に嫁いだ花嫁の奮戦記「どっきり花嫁」三部作('68〜69)をはじめ、『秋の蛍』('73)、『華のいろ 化粧より』('91)など、30作以上に出演。NETポーラ名作劇場『冬の花・悠子』(’74)では、第7回テレビ大賞優秀個人賞受賞ならびにギャラクシー賞第29回期間選奨を受賞。同年、フジテレビ『女の気持』でも第7回テレビ大賞優秀個人賞を受賞。『女の足音』(’76)、『午後の恋人』(’79)、『花の影』(’82)など、シリーズ400回を越える放送の62回の主役を務め、「平岩弓枝ドラマシリーズ」に欠かせない存在となる。

NHK大河ドラマは、『新・平家物語』('72)をはじめ5作品に出演。『武田信玄』('88)では、信玄の母役とナレーションを兼任。番組終わりの「今宵はここまでに致しとうござりまする」というセリフがその年の流行語大賞金賞を受賞。また、連続テレビ小説『おひさま』(’11)では、ヒロインの成長した現在の姿とナレーションを担当し、美しい本来の日本語を呼び覚ました功績を高く評価され、第63回日本放送協会放送文化賞を受賞した。

初舞台は、菊田一夫演出「雪国」('70)。以降、芸術座の常連として『桐の花咲く』('72)『女橋』('73)『喜和』('74)『忍ぶ川』('76)に出演。帝国劇場『暗闇の丑松』('73)、日生劇場『残菊物語』('74・'80)『樋口一葉・明治の雪』('78)『健礼門院』('85)『おさん茂兵衛』('87)『鹿鳴館』('88)、新橋演舞場『鹿鳴館物語』('81)、明治座『雁』('93)『花のひと深川亭』('94)、『妻たちの鹿鳴館』('00) ('02)などに主演し好評を博す。近年では、『ウェストサイドワルツ』('04・'05)『セレブの資格』('07)など翻訳劇や翻訳喜劇までレパートリーを広げ、『華々しき一族』('08) ('10)、『女の人さし指』('11)『明日の幸福』('12)など主演公演を重ねている。

日本映画の黄金期から現在まで半世紀以上に渡り、映画・テレビ・舞台と、どのメディアにおいても第一線の女優として活躍。その全キャリアを網羅した初の公式アルバム『女優 若尾文子』が2012年にキネマ旬報社より上梓された。和服姿の艶やかさから海外での人気も高く、その甘美な中毒性と恒久的な新しさゆえに、若尾文子主演映画は、いまも世界各都市の名画座で繰り返し上映され、時代を超えて永く広く深いファン層を獲得し続けている。

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